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- 遺伝子組み換えと何が違う?ゲノム食品の概要と表示義務化が難しい理由
目次
遺伝子を改変できるゲノム編集技術を用いた"ゲノム編集食品(以下、ゲノム食品)"。今月から国への届け出が開始されており、早ければ年内にもゲノム食品が食卓に並びます。
ゲノム食品について、一部は安全性審査が義務づけられておらず、また食品表示も販売側の任意とされているため、消費者からは不安の声があがっています。
そこで今回は、ゲノム食品やゲノム編集技術の概要、従来の品種改良と遺伝子組み換えとの規制面の違い、なぜ食品表示の義務化がなされないのかについて解説していきます。
ゲノム編集技術で何ができる?開発中のゲノム食品
ゲノム食品とは、ゲノム編集技術によって狙った遺伝子を切断したり、狙った遺伝子を加えたりした食品のことです。
そもそもゲノム編集技術とは、生物の遺伝子情報(=ゲノム)の特定部位にDNAを切断できる酵素を注入したりして、細胞内で意図的に変化を起こして性質を変えようとするもの。
DNAを構成する塩基が一部抜ける、または別の塩基配列が入ることもあるのですが、これによって良い性質が加わったり、悪い性質が抑えられたりするそうです。
食品の分野においては、家畜や作物を品種改良する際にゲノム編集技術を取り入れようという試みが行われています。
現在、開発中の主なゲノム食品は以下の通りです。
・高オレイン酸大豆
不飽和脂肪酸であるオレイン酸が多く含まれており、飽和脂肪酸であるトランス脂肪酸が含まれない。米国ではすでに市販が開始されている。
・収量の多い稲
穂の枝分かれや米粒の大きさに関係する遺伝子に突然変異を起こすことで、収量を多くする。
・特定の栄養価に優れたトマト
血圧上昇抑制やリラックス効果のあるGABAなど、特定の栄養価を高蓄積させる。
・毒のないジャガイモ
食中毒の原因でもある、芽や変色した皮の部分にできるソラニン類が合成できないようにする。
・筋肉質で肉厚なマダイ
筋肉量を増やし、食べられる部分を増やす。
・おとなしいマグロ
おとなしくすることで養殖時の衝突死を防ぐ。
・角のない牛
飼育時に他の牛を傷つけないよう切られるが、牛に痛みを与えるため最初から角を持たない牛ができないかと研究・開発されている。
ゲノム編集技術を取り入れることで、短時間で効率良く品種改良ができようになると言われています。
現在、企業をはじめ研究機関や大学施設などがゲノム食品の開発に乗り出しているそうです。
従来の品種改良や遺伝子組み換えとの規制の違い
従来の品種改良、ゲノム編集技術、遺伝子組み換えとの規制の違いは、以下の通りです。
・従来の品種改良
従来の品種改良の手法は、「交配や放射線などによる突然変異」によるものです。遺伝子組み換え食品の規制対象外であり、食品表示義務もありません。
・ゲノム編集技術
狙った遺伝子を切断したり、狙った部分に遺伝子を加えたりします。前者は届け出や表示義務が任意となっていますが、後者は遺伝子組み換え食品の規制対象にあたるため、表示義務が課されます。
・遺伝子組み換え
外部から遺伝子を加える手法です。遺伝子組み換え食品の規制対象なので、表示義務があります。
食品表示を義務化できないのはなぜ?
消費者庁は、ゲノム食品に関して届け出と食品表示の二段階での制度を設けることを発表しました。
届け出に関しては10月1日から始める通知を出していますが、届け出はあくまでも任意なので違反しても罰則はありません。
また、食品表示については一部を除き任意にすると発表しています(外部から遺伝子を加える場合は安全性審査と表示義務が課される)。
10月からゲノム食品の開発者は届け出前に厚生労働省に相談し、開発した商品が制度の対象となるか判断を仰ぐことになります。
対象と判断されれば詳細情報を提出し、「有害物質がないこと」「外部から加えた遺伝子がないこと」を証明できれば、食品表示および安全性審査なしで販売できるというわけです。
これに声をあげたのが日本消費者連盟をはじめとする消費者団体。ゲノム食品の食品表示を義務化するように求めており、積極的に署名活動に乗り出しています。
東京大学の研究員らが2018年に実施した意識調査では、回答者の4~5割の消費者がゲノム食品を「食べたくない」と回答。
「いじってあるならそう書いたほうがいい」「詳しいことが分からないものを口に入れるのは怖い」という声もあがっているそうです。
しかし、消費者の思いとは裏腹にゲノム食品の表示義務化は難航しています。
というのも、ゲノム食品は自然に起こる突然変異や従来の品種改良によるものと"科学的に区別できない"と言われています。
また、ゲノム食品を規制していない海外からの輸入品を使って加工食品を作った事業者に対し、表示義務を課すことは難しいでしょう。
これらの点から、政府は食品表示の義務化は困難だと判断しているそうです。
ただ、ゲノム食品の食品表示について消費者から強い要望があることも踏まえて、事業者側に積極的に表示するよう呼びかけているとのこと。
とはいえ、何度も言うように食品表示はあくまでも任意。ゲノム食品に対して良い印象を持たない消費者が多い状況で「表示する」と判断する事業者は少ないのではないでしょうか。
なお、ゲノム食品について海外ではどうなのかと言うと、米国は特に規制していませんが、EU(欧州連合)では欧州司法裁判所が「遺伝子組み換え食品と同様に規制すべき」という見解を述べています。
届け出た国内企業はゼロ!?先陣を切るのは米国勢の可能性"大"
ゲノム食品の対象となる食品の届け出があった場合、厚生労働省のサイトで情報が公開されることになっています(届出されたゲノム編集技術応用食品等 )。
届け出に向けて動いている企業もいるそうですが、今のところ届け出ている国内企業はゼロです(2019年10月10日午前時点)。
一方、米国の種子開発の大手企業「コルテバ・アグリサイエンス」が、同社で作っているゲノム食品(トウモロコシ)を年内にも届け出る見通しと言われています。
現状では、ゲノム食品の届け出第一号が米国勢になる可能性が高いというわけですね。
なお同社のトウモロコシは加工食品の原材料となるため、仮に届け出がなされても、どの加工食品に使用されているかは消費者には分かりません。
食品は生活に欠かせないものなので消費行動が急激に落ち込むことはないでしょうが、選ばれる食品(事業者)には偏りが出る可能性があるでしょう。
まとめ
ゲノム食品が安全かどうかも重要ですが、それと同じくらい消費者はその食品がゲノム食品なのかどうかという事実を知りたいはず。
ゲノム食品の食品表示の義務化は現状では難しいでしょうが、消費者庁は「必要であれば見直しを含めて対応したい」と話しているそうなので、今後の動きに注目しましょう。
政府、ゲノム編集技術やゲノム食品の関係者、専門家だけでなく、身近に立つ消費者もゲノム食品についての正しい情報や知識を得る必要があります。
そのためにも、まずはゲノム編集技術やゲノム食品に関心を示すことから始めてみてください。
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